東京を代表するHIPHOPクルーとしてすっかり定着した「YENTOWN」から、間違いなく注目度No.1のラッパー kZmがデビューアルバム『kZm / DIMENSION』をリリースしました。
USはもちろん日本でも流行しきったといっていいTRAP、そのTRAPの先を意識した少し先のHIPHOPを提示するような素晴らしいアルバムでした。選び抜かれたであろうリリックの世界観が、聴き手によって様々な感情や感覚を印象付けてくれてます。最近のHIPHOPのブームで次々と現れる若いラッパーたちとは、一線を画す存在感と深みを持った簡単ではないラッパーによる、カッコ良くも深みのあるアルバムです。
YENTOWNを一気にメジャーへと引き上げたAwich、日本のHIPHOPシーンでも特別な存在といっても過言ではない5lackなど、客演との絡みも最高でした。ここ最近の日本のHIPHOPでは圧倒的におすすめです。
kZmの才能とセンスを存分に見せつけた曲やリリック
1994年渋谷生まれ、渋谷育ち。まさにNEOTOKYOなプロフィール。HIPHOPの入り口が広がりまくった現代のシーンでも、存在感と期待感が日に日に高まっていたラッパーといえます。『kZm / DIMENSION』は、そんなkZmの才能とセンスを存分に思い知らされる素晴らしい曲ばかりでした。
Sect YEN feat. Awich – kZm (Prod. Chaki Zulu)
YENTOWNのAwichとの曲。プロデュースもYENTOWNのChaki Zuluとおなじみかつ間違いのない布陣。歪んだベースがメインの、BPM遅めのトラックが良い感じで腹に響きます。適当なようでしっかりとリズム良くラップをのっけるkZmもgood。Awichのリリックが、アルバム『Awich / 8』の「WHORU? feat. ANARCHY」から続く内容になっているのも最高です。
『Awich / 8』まだの人はmustです。モノホンフィメール。
WANGAN – kZm (Prod. brandUn DeShay)
このアルバム『kZm / DIMENSION』のハイライトと言っても良いほどに、新しくもカッコ良い曲。プロデュースは、元Odd FutureのbrandUn DeShay。イントロからトラックとkZmがグイグイ煽ってくる感じ。冒頭からのハイテンションですぐにと引き込まれてしまいました。ノイジーかつ疾走感のあるトラック、トラックの勢いをそのまま具現化したようなシャウト混じりのフック、その中でも光るkZmのリリックとラップ。めちゃくちゃカッコ良いと思います。PVもいちいちセンス良い。
ちなみにこの曲はニート東京のインタビューで、kZm本人がもっとも納得のいった曲として挙げていました。
Deadman Walking On The Moon – kZm (Prod. ANJULIECAT)
私がkZmを初めて知った曲、というかPVがこの「Deadman Walking On The Moon」。不穏なトラックと意味深なリリック、日本的なゾンビ・ホラー映像に1発でヤラレました。金稼いでYeah、毎日party、みたいなありがちなリリックをTRAPでするんじゃなくて、しっかりと聞かせるリリックを聴き手に植えつけられるラッパーやな、とすごい印象を受けたもんです。自分の描く世界観をしっかり表現できるアーティスト。首からヘビはただただ怖いです。
Midnight Suicide feat. Awich – kZm (Prod. Mitch Mitchelson & Chaki Zulu)
再び客演にAwich。この曲に関しては、Awichの存在感がすごい。嫌味なくカッコ良く聴かせる英語の発声はさすがです。何かと引っかかるkZmのリリックはこの曲でも魅力的。生と死だったり、聴き手によって捉え方が変わってくるような、フワッとしつつも深さのある言葉の選び方が素晴らしい。
トラックは壮大な雰囲気とTRAPを掛け合わせた仕上がり。kZmとAwichの2人で歌うフックが絶妙なスロウダウン具合で、この曲の雰囲気をより大きく壮大に感じさせてくれます。kZmとAwichの相性は素晴らしく良い。
Emotion – kZm (Prod. hnrk)
「Midnight Suicide feat. Awich」の次の曲でアルバムの最後から2番目の曲。プロデュースはhnrkというドイツのプロデューサー。序盤の曲とは完全に方向性が切り替わった、広がりのあるゆっくりと聴かせる落ち着いた雰囲気です。岐阜にある養老天命反転地で撮影されたPVと相まって、自然と芸術がゆったり溶け込んだような印象を受けました。曲名の通りエモーショナルな曲。あと、養老天命反転地がめちゃくちゃ気になる。check.
Wolves feat. 5lack (Prod. Chaki Zulu)
『kZm / DIMENSION』の客演での注目はやっぱり5lackの存在。スタイルは違うんですが、自分のスタイルへの絶対的な自信とか、リリックに深さを持たせるところとか、なんとなく共通点がある気がします。
全然知らなかったんですが、kZmは5lackをめちゃめちゃリスペクトしてるようです。このインタビューの内容にびっくりしました。おぉぉぉ。
「俺の中で5lackさんは、もはやラッパーではなく音楽家。リリックも、フロウも、立ち振る舞いもすべてヤバい。5lackさんとやるうえで、たぶんリスナーの多くは5lackさんのノリに俺が乗っかると思っている気がするので、逆にこっちの世界に引き込めれば、俺のアルバムでしか聴けない曲になると思って作りました。」
(via Mikiki)
5lackもKojoeとの語りの中でkZmの名前を挙げてたりしてたので、お互い認め合ってるんだろうな感がビンビン。5lack好きの私としては嬉しい共演でした。
TRAP全盛期の現在のシーンの少し先を意識したアルバム
私自身、USはもちろん日本のHIPHOPシーンでも全盛期を迎えているTRAPは、正直あんまり好きではないんですね。トラックに乗っかるストレートで直接的過ぎるリリックがあんまり受け入れられなくて・・・。特に日本のTRAPをやってるラッパーの曲は言葉の意味が分かりすぎて、何が言いたいの?とか、そんなん分かってるわ!って思っちゃうところがあるんですよね。
そんなTRAPのノリに飽き飽きしてたところに、ズバッと切り込んだのがこのkZmというラッパーなんじゃないかと思っております。ドラッギーで良い意味でバカっぽくぶっ飛んだノリのTRAPサウンドと、kZmの深みのあるリリックの世界観とが真逆なようで掛け合っているというか。TRAP全盛のHIPHOPシーンを、新しい次の展開に持って行こうと意識しているんだろうな、と感じました。
あとこの辺りについて、ベルリンのメディア「INDIE Magazine」の「UNCOVERING ASIA’S UNDERGROUND」という企画でのインタビューで語っておりました。めちゃめちゃ納得できる内容ですし、これ見てからアルバム『kZm / DIMENSION』を聴き直してさらに納得でした。一本筋が通った若者ですわ。
妙な説得力と揺るがない自分のスタイルと思想を持ったラッパー、これが私のkZmの印象です。ハイセンスなファッションとは反対にスタイルはB-BOY。シーンに影響されるのではなく、自らシーンを変えられる、作れるラッパー。『kZm / DIMENSION』、TRAPはあんまりなぁ・・・という人にも是非聴いてみて欲しいアルバムです。ここからTRAPのシーンも少し変わるかも?!
kZm / DIMENSION
TRACK LIST :
- Intro -Dimension- (Prod. Chaki Zulu)
- 絶唄 (Prod. hnrk)
- Sect YEN feat. Awich (Prod. Chaki Zulu)
- Rari – 狂- (Prod. WATAPACHI)
- WANGAN (Prod. brandUn DeShay)
- Deadman Walking On The Moon (Prod. ANJULIECAT)
- 腕にバンダナ (Prod. Chaki Zulu)
- She Knows feat. Gab3 & PETZ (Prod. Chaki Zulu)
- Tear Drop (Prod. Chaki Zulu)
- Skit
- Wolves feat. 5lack (Prod. Chaki Zulu)
- KOKORO (Prod. jjj)
- Cosmo (Prod. OVER KILL (FUJI TRILL & KNUX))
- Midnight Suicide feat. Awich (Prod. Mitch Mitchelson & Chaki Zulu)
- Emotion (Prod. hnrk)
- Dream Chaser feat. BIM (Prod. Chaki Zulu)